NHKのテレビ番組「ドキュメント72時間」にも取り上げられ、今や親子連れや絵本好きで賑わう、日本屈指の絵本専門店「Book House Cafe(ブックハウスカフェ)」。
その輝かしい姿の裏側には、「この街を、この場所を、絶対に守りたい」という、オーナー今本さんの強い想いと、幾多の苦労を乗り越えてきた物語がありました。
「仕事は雑用が大事。雑用の中に大事なことが詰まっている。」
朝から夜遅くまで働く今本さんの姿に、この店が愛され続ける理由を見た気がします。
神保町という本の街を、ブックハウス神保町の想いを、つなぐ”最初の1歩”

2017年5月5日、子どもの日に誕生したブックハウスカフェ。
ここにはかつて、今本さんがお子さんと共に通い、楽しい時間を過ごした「ブックハウス神保町」がありました。
「ブックハウス神保町」は、今本さんの祖父が創業した北沢書店(2階)のビルの1階に入居していた子どもの本の専門店でした。
その「ブックハウス神保町」が閉店することになり、テナント募集をかけていたそうですが、この場所を本屋として借りたいという方はなかなか見つかりませんでした。
「神保町は年齢層の高い本の街。ブックハウス神保町は子どもが楽しめる貴重な書店で、11年も沢山の親子に愛されたお店でしたから、何としても続いて欲しいと思いました。」
その想いのもと、今本さん自ら会社経営に挑戦することを決意しました。
赤ちゃんが泣いても大丈夫。授乳もおむつ替えもできる。だからこそ、小さい子ども連れの方も安心して行くことができる。
絵本と出会い、人とつながる“劇場のような書店”を目指し、ブックハウスカフェの物語はスタートしたのです。

絵本だけでは続けられない─支えるのは4本柱
ブックハウスカフェに行ったことのある方は「スタッフさんが笑顔」「カフェメニューが美味しい」「人気な絵本屋さん」「いつもイベントをやっている」という印象を持っているのではないでしょうか。

私も絵本販売以外に様々な活動をしている「凄い絵本屋さんだなぁ」と思っていました。
しかし、実際には「書店(絵本販売)」のみで経営するのは困難であり、ブックハウスカフェを存続するために「飲食(カフェ・バー)」「イベント」「場所貸し」を含めた4本の事業柱が必要だったそう。

駅から徒歩1分という神保町の好立地、さらに日本全体でもトップクラスの広さを誇る店舗の維持費は、絵本の売上だけでは到底まかなえない現実がありました。
絵本と思い出を売る「書店」を残す。そのために何ができるか

絵本の利益はおよそ2割。1,500円の本を売っても、手元に残るのはわずか300円ほどです。
その厳しい現実を前に、私は思わず背筋がぞっとしました。
だからこそ、ブックハウスカフェは「書店」としての役割に加えて、別の収入源を確保する必要があり、「飲食(カフェ・バー)」「イベント」「場所貸し」の運営も始めたそうです。

もともと倉庫だったスペースを改装して誕生したバー「リリパット」は、「大人も気軽に通えるもう一つの入り口」として、今では欠かせない魅力の一つになっています。
それぞれが「ブックハウスカフェ」にとってなくてはならない「魅力」として、多くのお客様の笑顔を生み出しています。

絵本のワンダーランド、子どもも大人も心躍る「劇場」へ
ブックハウスカフェのコンセプトは「劇場」。
「もともと劇場が好きで、何かに出会えそうなワクワク感、お気に入りの1冊を探す楽しみや絵本でいっぱいの空間そのものの魅力がこの店のイメージとしてありました。」

ブックハウスカフェ で素敵な本と出会ったり、思いがけず友人や楽しいイベントと巡りあったり、好きな作家さんからサインをもらったり、そんなワクワクを感じる劇場のようなお店を目指しているそう。
また、前身のブックハウス神保町から引き継いだという天井絵は、やわらかな色合いの太陽と月が寄り添い、優しく空間を包み込みます。

「親が子どもに与えたくなるような正しく立派な絵本だけでなく、いろいろな絵本を置いて、子どもたちに自由に選んで欲しい。」
絵本だけでも1万冊以上という圧倒的な品揃え。一般の書店ではなかなか出会えない絵本が、子どもたちの好奇心をかき立ててくれるはず!

唯一無二の絵本専門店を作ること
独自の視点で絵本屋経営を続ける今本さんに、今後の運営方針について伺いました。
「街の書店として、より個性的なスペース、心のこもった接客を心掛け、唯一無二の絵本専門店をつくること。絵本業界、絵本文化にとっても、コミュニティ的な役割が果たせたら嬉しいです。」
その言葉からは、「絵本専門店の店主」という枠を超えて、「神保町という街全体に貢献したい」「絵本業界を盛り上げたい」という熱い想いを感じました。
「全国の絵本ファンの皆さまにとって、ブックハウスカフェが心休まる「東京の拠点」のような存在になれるよう、温かくお客さまをお迎えしたいと思います。まだまだ至りませんが、努力していきたいと思います。」
神保町の街に根を張りながら、誰にとっても安心できる「絵本の場所」を目指すブックハウスカフェ。絵本のページをめくる音が、これからもこの場所で響き続けるんだろうと確信しました。

ブックハウスカフェを一緒に創り上げるスタッフさん
ブックハウスカフェを訪れると、絵本だけでなく「人のぬくもり」に出会えるのも魅力のひとつ。 今回は実際に働いている「山本さん」「石井さん」に、好きな絵本や選書ルール、ブックハウスカフェの推しポイントについてお聞きしました。
山本さん

【絵本の選び方】タイトルや表紙の雰囲気を見た時の直感で選ぶことがほとんどな気がします!
実は絵本作家を目指している山本さん。デザイン専門学校在学中に出た「絵本の課題」をきっかけに、絵本の作り手になりたいと感じたそう。
イベントで絵本作家さんと話したり、絵本に詳しい先輩と話して日々勉強しているんだとか。
好きな絵本は「ピッツァぼうや」。タイトルと表紙のインパクトに惹かれました。きっと私に子供ができたらこの作品同様に親子でピッツァを作ると思います。
素敵なイラストも書いてくださいました。ありがとうございます!


石井さん



【絵本の選び方】かわいくてやさしい世界の絵本を選ぶ事が多いです!
ふんわりとした優しさが、話す前からにじみ出ていた石井さん。4年前に求人募集を見て応募し、今もブックハウスカフェを支えています。
※私も同じタイミングで求人票に応募するか迷っていたので親しみを感じました!
原画展を間近で見られることや、作家のサイン本と出会えるのが、ブックハウスカフェの推しポイントだそうです。
好きな絵本は「かえりみち」。やさしさの輪が広がっていくところです。とってもあたたかい気持ちになれます!


~絵本BOX編集部コメント~


便利なネット書店には敵わないかもしれない。けれど、「絵本を手に取って選ぶ体験」や「親子三世代で思い出をつくる時間」は、ここでしか生まれない価値です。
今本さんの強い想いと、スタッフさんの温かい笑顔、そして訪れる人々の声が重なり合って、この唯一無二の場所は成り立っているのだと感じました。
特にコロナ禍での経営難のとき、ホームページでお客様にカンパをお願いし奇跡的に乗り切れたというお話は、この店がどれだけ多くの人々に愛され必要とされているかを物語っています。


私も取材中、原画展に見入ってしまったり、スタッフさんとの会話にほっこりしたり、赤ちゃんや子どもの笑顔に癒されたりと、気づけば長居してしまいました。


この神保町に子どものための絵本屋がある価値を私たちも応援したいと思いました。
訪れるたびに、新しい絵本との出会いが生まれる。あなたの心に残る一冊を探しに、ぜひ一度足を運んでみてください。
店舗情報
項目 | 内容 |
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店舗名 | Book House Cafe |
住所 | 東京都千代田区神田神保町2-5 北沢ビル1F |
電話 | 本・イベントの問い合わせ: 03-6261-6177カフェ・バーのご予約: 03-6910-0819 |
営業時間 | 書店11:00-18:00 カフェ11:00-18:00 (L.O.17:30) バーリリパット平日のみ 20:00-23:00 |
定休日 | 年中無休 (年末年始を除く) |
アクセス | 神保町駅 A1出口 徒歩1分 九段下駅 6番出口 徒歩5分 水道橋駅 西口 徒歩10分 |
bookhousecafelove | |
ホームページ | https://bookhousecafe.jp/ |