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【取材レポ】南と華堂(なんとかどう) | 感動を伝え広げる小さな絵本屋さん in 日野市

南と華堂 店主の井上さん

東京都日野市の住宅街にひっそりと佇む、絵本専門店「南と華堂」。

「森の中の絵本屋さん」のようなウッド調の外観は、通りがかる人の心をワクワクさせてくれる。

店主の井上さんは、子育ての中で絵本と出会い、心動かされ、母親の介護をしながらも、自身の夢である「絵本屋さん」を立ち上げました。

「いつか」ではなく「今だからこそ」と始めた南と華堂。

この記事では、井上さんが「南と華堂」をオープンするまでの軌跡と、お店に込められたやさしい想いをたどります。

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娘がつないだ音感教室。そして、絵本との出会い



南と華堂の店主である井上さんが絵本の世界に強く惹かれるようになったきっかけは、娘さんと一緒に通った「音感教室」だったと言います。

当時は浜松に暮らし、娘さんの習い事を考えていた頃。

偶然出会ったその教室は、ヤマハが展開する「3歳児限定」の特別なクラス。ベテラン先生が作る独自のカリキュラムで音楽以外にも芸術作品やギリシャ神話、聖書など、毎回刺激的な授業をしてくれたそう。

「音感教室で最初に読んでくれたものが、レオ=レオニの”あおくんときいろちゃん”。他にも、ショパンの音楽にあわせて”ころころころ”を読んでくれることもありました。こんな絵本があったんだという驚きと同時に、絵本に興味を持つきっかけになりました。」

「娘のためと通った教室で、1番影響を受けたのは私でした。何見ても全て感動しちゃって、娘が年子だったので2年通って、追加で1年見学もさせてもらったんですよ。」

娘さんとの時間の中で井上さんが出会った「絵本との時間」。それが、南と華堂という絵本屋をつくる第一歩だったのです。



浜松の静かな時間がくれた“古本屋”という選択肢

「浜松って、良い意味で刺激が少なくて。図書館に通い、絵本をはじめ自分の興味にどっぷり浸れる時間があったんです。」

静岡での子育て時代を振り返る井上さん。

娘さんが成長してからも絵本への想いは変わらず、読み聞かせボランティアにも参加し、絵本との接点は持ち続けたそう。

「古物商の許可さえ取れば、私でも古本屋が始められるかも。販売職の経験も活かせるんじゃないか。」

古本屋「COW BOOKS」の松浦弥太郎さんや、「ヴィレッジヴァンガード」の創業者・菊地敬一さんの本屋立ち上げまでの物語を知ったことが、「絵本への興味」が「古本屋という選択肢」へと変わった瞬間だったと言います。

介護の日々に差した、ブックマンションでの確かな手応え

南と華堂 店内画像

母親の介護と娘さんたちの大学進学のため、東京都日野市へと生活の拠点を移した井上さん。毎日の生活は、時間にも心にも余裕がなく、ただただ過ぎていくような日々だったといいます。

そんな中、新聞でふと目に留まった「ブックマンション」の記事。

もともと「いつか古本屋ならできるかもしれない」と思っていた井上さんにとって、その“シェア型本屋”というスタイルは、背中を押してくれる存在に映りました。

思い切って申し込んだ本棚。その一歩が、ずっと心にあった夢を現実に近づけてくれました。

2019年11月、ブックマンションで絵本の販売をスタート。

「今まで本屋さんって接客するっていうイメージが無かったんですけど、お客さんに絵本の話しをすると買ってくれることが多かったんですよ。」

介護中心の生活の中で、久しぶりに感じた「井上さん自身としての喜び」でした。そしてそれは、自分のお店を作るために、物件探しを始めたタイミングでもありました。

終わってほしくない介護と夢の共存 「南と華堂」オープンまでの道のり

南と華堂の外観

井上さんは、親の介護に向き合っていた頃について、こうもお話ししてくれました。

「子育ての終わりが成長なら、介護の終わりは別れ。絵本屋を始めるにしても、母の介護と共存できる道を目指さないといけない。」

介護が終わってから絵本屋を開くのではなく、共に歩む形で両立させたいという強い想いから生まれた決断でした。

「南平でお店をしても商売は成り立たない」と反対するお父さんの声も、周囲の不安も、それでも揺るがなかったのは、「絵本屋をやりたい」という気持ちが自分の奥底から噴火するように湧き上がっていたからです。

気持ちが固まった頃、運命のように出会った、ぴったりの物件。

そこからの行動は早く、2020年11月、「南と華堂」は静かにその扉をひらきました。

「介護が終わったら」ではなく、「今だからこそ」と始めた絵本屋。

家族との時間も、自分の夢も、どちらも大切にしたい。そんな想いを持つすべての人に、選択肢の1つとして知ってもらいたいと感じました。

「ここに来てよかった」と思える場所、南と華堂。

南と華堂 店内

「南と華堂」は、もともと古本を中心にした絵本屋さんとしてはじまりました。知人から譲ってもらったり、書店から仕入れたりしながら、絵本を集めていったそうです。

しかし、コロナ禍で近くの書店が閉店し、古本の仕入れが難しくなったり、衛生面の心配から古本自体を避ける方が増えたり。

そんな変化を受けて、今では新刊絵本を中心に、趣味の本やヤングアダルト系、児童書まで、井上さんの「いいな」と感じた本を約1,000冊取り扱っています。

南と華堂 店内画像

2025年4月には、リニューアルオープンをして、外観も内装もがらりと変わり、初めて訪れたときの「わ、素敵…」という気持ちは、今でも忘れられません。

外のベンチで絵本をひらいたり、店内の机でゆっくりページをめくったり。本を読む時間そのものが、自分の心を穏やかにしてくれます。

そして、「南と華堂」のいちばんの魅力は、井上さん自身かもしれません。

「一期一会の気持ちで、わざわざ私のお店にいらしてくださったことに感謝の気持ちを忘れずにいたいと思ってます。購入するしない以前のことなので、お店を訪れたら何かよかったなという気持ちでお帰りいただくように心がけています。」

その言葉どおり、お店を出るときには、ふんわりとしたあたたかさが胸に残るのです。

絵本との出会い、人との会話、静かなひととき。「南と華堂」は、そのどれもをそっと包み込んでくれるような、「ここに来てよかった」と感じるそんな場所でした。

プチ情報~店名の由来~

「南と華堂(なんとかどう)」は「あの店、なんだっけ?○○堂だった気がする」と考えたときに思い出してもらいやすいように、という遊び心から名付けられたそうです!

また、娘さんたちの名前から一文字ずつとったら、うまい具合に「南と華堂」になったとのこと!お店のロゴも娘さんたちがモチーフになっています。

南と華堂 ロゴ

南と華堂 井上さんのおすすめ絵本

井上さんにおすすめの絵本を2冊教えていただきました。

「他にもたくさんあるよ」とのことだったので、他にも知りたい方は直接お店に行って聞いてみてくださいね!

①ぐるんぱのようちえん(作:西内 ミナミ / 絵:堀内 誠一 / 出版社: 福音館書店)



子どもの時に大好きだった絵本、今も色褪せずに何度読んでも素晴らしい。

②おおきなて(著:チェ ドッキュ / 訳:申 明浩 / 出版社: ひだまり舎)



大人向けの韓国の絵本で文はほとんどないのですが、絵で語る力を感じました。

ぐるんぱのようちえんは名作であり、知ってる方もいたかもしれませんね!

また、おおきなては今回初めて知ったのですが、絵だけでここまで伝える力があるんだと感じました。また親への感謝も自然と湧いてくる、そんな心温まる絵本でした。

絵本BOXからのコメント

南と華堂 店舗外観と絵本BOXメンバー

介護をしながら、始めた「南と華堂」。

「終わらせたくない介護だからこそ、終わった後に時間ができてから始めようとは考えたくなかった」と聞いて、ハッとさせられました。

また、大事にされている「一期一会」の接客姿勢。お店に来てくれた方には、何かよかったなという気持ちで帰ってもらえるように心掛けているとのこと。

短い時間でたくさんの絵本を紹介していただきました。井上さんが楽しそうに絵本の魅力を伝えてくれるので、自然と聴き入っていました。

井上さん自身が体験した「感動」を伝えたいという想い。気づけば、その感動を私も伝えたくなっていました。お店の雰囲気はもちろん、井上さん自身の在り方に魅力を感じる時間でした。

項目内容
店舗名南と華堂(なんとかどう)
住所東京都日野市南平6-17-10
営業時間11:00〜17:00
定休日火・水・木
アクセス京王線南平駅北口から徒歩5分
Instagramnantokadou
ホームページhttps://peraichi.com/landing_pages/view/nantokadou/
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